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暇つぶしになる記事があればこれ幸い。

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多重人格の彼氏を持つ友人の憂鬱(仮)

珍しい体験記

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小窓だわよ。

今日は、昔私が経験した「そりゃないよ」という珍妙な一件をお話します。
(仮)とはどういう意味なのかも、最後まで読んでいただければわかると思います。

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以前、私が働いていた職場にとても人懐こい女の子がおりました。仮に「なっちゃん」とします。
なっちゃんと私はすぐ仲良くなり、お昼休みにはしょっちゅう2人で恋バナをしていました。

そんななっちゃんに、好きな人ができました。
相手は女子にモテモテのイケメン、浅野君(仮名)。
写メを見せてもらいましたが確かにかっこよかった。身長も180センチあって細身でおしゃれで申し分のない人でした。

そんな彼と恋人同士になりたくて仕方なかったなっちゃんは、私に相談しながらも一生懸命アタックしていたようで…、
見事、カップルとして結ばれたのでした。

1度だけ3人でご飯を食べに行きました。
私はいかになっちゃんが浅野君のことで恋患っていたかを暴露したりして、とても楽しく過ごした。初めて会った浅野君は写メ以上のイケメンで、ちょっとシャイだけど礼儀正しく、なっちゃんとお似合いに見えました。

恋バナも「彼女になるにはどうすればいいかな」から「彼にもっと好きでいてもらうためにはどうすればいいかな」に変わり、傍目に見てもとても幸せそうななっちゃんでした。

しかし、幸せは長く続かないもの。

ある日の夜、なっちゃんから「明日、お昼休みにちょっと相談に乗ってもらえるかな?」と神妙そうなメールが届く。

彼と喧嘩でもしたかな?と思って、次の日に話を聞くと、それは私が想定していた以上の大きな相談でした。

「浅野君が最近ずっとおかしくて、私に隠し事してるみたいなの」

ほうほう。それは心配だ。

「で、気になったから昨日問い詰めたの」

なるほどなるほど。

「そしたらね………、“僕は実は多重人格なんだ”って言うの……」





ん?( ⊙‿⊙)


多重人格…
解離性同一性障害とも言われる、人格がいくつかに分かれてしまう心因性の病気。

もちろん私も聞いたことはあります。
しかしながら、漫画や本で知ってる知識も「二重」人格止まり。「多重」と言うと債務者しか思いつかない。

「多重人格」と言うのはこれまた……

「えっ?」としか言いようがなかった。

詳しく話を聞くと、浅野君はなっちゃんと付き合うちょっと前から、自分の記憶が度々抜け落ちていることに気づいた。
けど、単なる物忘れかもしれないと思って放っておいたところになっちゃんが現れて付き合うことになった。

しかし、なっちゃんと付き合いだしてから、次第に事の重大さに気づいた。
自分が知らないところで別の自分が動いて生活をしている。それも1人や2人じゃない。数えられるだけでも5人いる。

病院は怖くて行ってない。図書館の本で調べて「多重人格ではないか」と言う答えにたどり着いた、とのこと。


「小窓ちゃんにしか言ってないの。他の人に話せないの」

「え?なんで?」

「だって小窓ちゃん、学校で心理学の勉強してたんでしょ。何かわかることがあるんじゃないかと思って…」





うわああああああああああ!!
確かにそうだけど、でも違う!!

確かに私は短大の心理学科で勉強していました。そのこともなっちゃんには話しました。
でもこんな特殊なケースは無理!!ちゃんと専門の勉強をなさっている医学博士とかじゃないと手に負えないだろ普通!!
私ができる心理学は、「すぐ頬杖をつく人は甘えん坊なんだよ」みたいな合コンで使うレベルのしょーもないものだけです!!

…って一応言ったんですけどね。
でも、話す人を選ぶ悩みだと言うことは理解できました。

興味本位で聞かれたくないだろうし、そもそもなっちゃん自身が全く受け止めきれていない。
彼を理解したい気持ち50%、どうしていいかわからない気持ち25%、引いちゃってる気持ち25%、と言う感じに見えた。

なっちゃんを引かせている原因は、5人の人格たち。
浅野君いわく、主人格は自分、そしてセシア、キラ、シュリ…(全て仮名)などのちょっとキラキラした名前の人がいるらしい。

「一番年上はセシアで、彼はすごく頭がいいんだ。彼が出ている時は普段の自分にはわからない問題もスラスラ解けるんだ」

とか、

「キラは一番怖い。何をしでかすかわからない。暴力的で手がつけられないから、もしなっちゃんに何かしたらそれはキラのせいなんだ」

とか、

「シュリは自分の弟分で、言ってることも幼くて無垢なんだけど、昔の自分を見ているみたいで理解できるんだ」

とか、もうどこからツッコんで解説してもらえばいいのやら。

なっちゃんは見ているのがかわいそうなくらい悩みこんでしまうし、この件について知っている第三者は私だけ。
何この状況?と思いましたけど、話を聞いてしまった以上なっちゃんを見捨てるわけにはいきません。「次に会う時は、とりあえず何事もなかったかのように接してみよう」と言うことになりました。暫定で。

よくわからないけど、きっと浅野君本人が一番辛いはず。
それを周囲が勝手に騒ぎ立てたり、質問攻めにしたり、ましてや怖がって距離を置かれたりしたら悲しいだろうと。

けど、付き合ってまだ1ヶ月にも満たない新米彼女に背負わせるにはちょっと荷が重すぎやしませんか、とも思いました。

その後、なっちゃんが浅野君とデートをする度に、翌日は私と恋愛会議をすると言うルーティンが出来上がりました。

伝え聞く限りでは、浅野君の病気が改善される気配はなかった。
彼は依然として病院へは行こうとしないし、なっちゃんと接する時はセシアだのキラだのは出てこないらしい。会話もできるし、笑ったりもするし、カップルとして体のコミュニケーションも取れているらしい。

けど、時々「頭痛がする」とか「体調が悪い」と言って早く帰る日があったり、多重人格について少しでも話そうとすると急にキレられたりしたようで、なっちゃんのため息は止まらなかった。

そして私はと言えば、もう完全なる聞き役。
ちょっと心理学をかじったくらいで的確なアドバイスなんてできるはずもないし、変に刺激して何か起きても困るので、ただただ聞くだけだった。

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そんなある日ある夜、急になっちゃんからメールが来た。
「今、小窓ちゃんちの近くまで浅野君の車で来てるんだけど、良かったら3人でドライブしない?」と。

おお、ついに噂の浅野君とご対面か。

一度だけ会ったことはあるけど、それはカミングアウト前だったので、何の心の準備もいらなかった。
けど今は違う。知っているし、知っていることも知られている。
(私に相談していることはなっちゃん自身が浅野君に話していた)

どうしよう。逃げられない。
私にはこの日の夜が、新しいステージに見えた。

最初の暫定取り決めに従って「何事もなかったかのように振舞う彼女の友人」作戦を決行した私。車内では思ってたより普通に振舞うことができ、浅野君もなっちゃんも楽しそうでホッとしたんです。

しかしこの後、あんな地獄が待ち受けているとは。

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ドライブの後、ファミレスに寄りました。
メニューを決め終えた後、なっちゃんがトイレに立ち、初めて浅野君と2人きりになった私。一瞬、気まずい空気が流れました。

そしたら、浅野君の方から振ってきたのです。
「小窓ちゃんは、僕の病気のこと知ってるんだよね?」と。

「あ~…、まぁ一通り話は聞いたけど」とモゴモゴ答えました。
私はこの問題に関しては完全なる第三者だし、深く立ち入るようなことは言ってはいけない、と自分を戒めていました。

と言うのも、普段どれだけなっちゃんが悩んでいるか知っていたからこそ、彼に「どう思ってるの?」「病院に行ってみれば?」と問い詰めたい気持ちもあったからです。
けどそれは飲み込み、干渉しない姿勢を見せることにしました。

そしたら浅野君の方から
「そうか…。その事についてちょっといいかな、話しても」
と言うではありませんか。

もしかして、逆に第三者だからこそ打ち明けられる悩みとかあるんだろうか?
それによってなっちゃんが救われるなら、聞こうじゃないか。

「いいよ、何?」
と言ったら、浅野君は…、



「俺が多重人格って言うの…、あれ実はウソなんだよね







( ⊙‿⊙)



「は?」


「ちょっと言ってみただけなんだけど、なっちゃんが本気にしちゃってるから引っ込みつかなくなったっつーか…」


「はぁ?」


「小窓ちゃんからなっちゃんに言ってもらえない?」


「………(プツン)何言ってるの?あんた」


「俺より付き合い長いでしょ、なっちゃんと」


「………(プツンプツン)いやいや、そういうんじゃなくてさ…、なっちゃんは、浅野君のことでめちゃくちゃ悩んでたんだよ。それなのに何言ってんの?」


「悩むって、何を悩むの?」


「………(ブチブチブチッ)彼氏が多重人格なんて聞いたら悩むに決まってるじゃん!」


「そんなこと言われても…、俺ももう疲れたし…、正直こういうの終わりにしたいんだよ」





と、ここでなっちゃんがトイレから戻ってきた。
その瞬間、浅野君が「俺、帰るわ」と言って急に帰ってしまった。つーか、逃げた。
残された私と、何も事情を知らずに「え?え?」となっているなっちゃん。





そりゃないよ。
そりゃないよ浅野!!!




ファミレスに置き去りにされた。浅野君の車で来たから足もない。
わけわからなくなってるなっちゃんと、真実を知っている私と、運ばれてきた3つのコーヒー。

何この状況。
何この状況。
何この状況。
深夜のファミレスで何やってんの私。

「あの…、信じられないかもしれないけどさ…」
と、やんわり事情を説明しました。

説明も何も、私だって「多重人格はウソだった」と言う情報しか知りません。彼がなぜそんなことをしたのかも、今後付き合いをどうしていくかも全くわからず。

その夜はひたすらなっちゃんを慰めるだけでした。
泣いてたよ。ずっと夜通し泣いてたよ。当たり前だよ。

後日、浅野君は携帯を解約したようで、なっちゃんからは連絡を取れなくなったそうな。けど、なっちゃんは追うわけでもなく、「もういいや」と言って彼のことは忘れようとしていました。

その後、なっちゃんは仕事を辞めて留学するため海外に旅立ってしまい、それ以来会っていません。
留学後、一度だけ絵葉書をもらったのですが、新しい彼氏が出来たことを報告してくれました。そこに一言「今度の彼は、セシアとか言わないよ!(笑)」と書いてあってホッとした。

あの夜、ファミレスで一通り泣き終えたなっちゃんの顔が清々しかったことを思い出した。

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「ただの中二病」とも言われる自称・多重人格者ですが、浅野君の場合は「病んでる自慢」と言うよりも、自分に対するコンプレックスに思えた。

後に、心療内科医の先生に「多重人格を虚言する心理」について聞いた時、「周囲のイメージと本当の自分に差があって、それがストレスになると、被害妄想が肥大して多重人格だと思い込みたくなることは有り得る」と言われました。

イケメンで高身長で優しくて、申し分ないと言われる表面とは裏腹に、彼なりのストレスを感じていたのかもしれませんね。

しかし、発散方法間違ってるから。
思うのは勝手でも人を傷つけちゃいかんよ。おそらく反省しているだろうけど。


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浅野君ともあれ以来当然会ってないですが、あの時のファミレスの会計とファミレスから家に帰るタクシー代は私が払ったことだけはここに書いておこう。

もし死ぬまでに会うことがあったら、コーヒー1杯奢ってほしい。そして浅野君もまた幸せであってほしいなと思う。